富山の魚介

肉の熟成は一般的に理解されていると思いますが、魚も熟成するということはあまり知られていないかもしれません。

新鮮さ=魚のおいしさだというのは一部の魚を除いては正解ではありません。
タンパク質が酵素により分解され、アミノ酸(旨味)になるというのが熟成の仕組みですが、
白身のある程度の大きさ魚においては適正な熟成によって衝撃的においしくなっていきます。
それにはいくつか条件があり、大きく分けるとまずは絞め方、そして保存方法、時間です。
これらをコントロールするには、どこでいつどのように捕れた魚で、どう絞められたかを知らなければなりません。

築地市場は世界最大の市場として魚種と量は素晴らしいものがあります。
早朝に遠方からわざわざ数多くの飲食店が仕入れにきます。
しかしここで買う魚の細かい履歴は辿ることができません。
一流のお寿司屋さんは経験と勘で熟成を行っていきますが、
僕はまだその域には達していないので、産地から直接買い付けることで熟成を可能とさせています。

前置きが長くなりましたが、DGの魚のほとんどは富山湾から直送されています。

屏風状に立ち並ぶ3000m級の立山連峰から吹き下ろす風、流れ出るミネラルが3000mのすり鉢状に急落する湾に注ぎ込みます。
この世界でも類を見ない特殊な狭い湾で、日本で取れる魚種の80%が獲れると言われています。
魚種も濃いですが、魚の味も濃いです。海水のミネラルから始まり、食物連鎖の順に濃くなっていくからです。

富山湾での漁獲高は石川県が圧倒的ですが、僕は10分の1の富山県側から直送してもらいます。
それは、量が少ない分、丁寧に扱ってくれると考えるからです。

取引している水産会社の岡本さんはやる気満々の二代目です。

夜明け前から鳴りっぱなしの電話を片手に市場の魚を判断していきます。

僕は料理方法と欲しい大きさと大体の値段を伝えてあるだけで、後は彼の力に任せています。

僕も彼の会社や市場や競りを見に行き、彼も僕の店や調理スタッフやサービススタッフを見に来てもらいました。
お互いがお互いをイメージできるようになることがとても大事です。
その上で店に届いた魚を見て、電話で価値観の擦り合わせを繰り返ししていきました。
おかげで今では魚の件で電話をすることはほとんどありません。遊びにいく約束の電話だけです。

5キロ級の天然真鯛を熟成させて、しっとりぷっくりねっとりとなった極上カルパッチョ、
獲れて4日目のノドグロの石窯グリルは溢れ出る脂とじゅっとりした身の舌触りが素晴らしいです。

地元では戦車みたいにでかいシボレーを乗り回す彼。
開店祝いに東京に来た時はお父様のVIPカーからスーツ姿で怪しく降りてきた彼。
スノーモービルを買って一冬乗り回したら売ってしまう彼。

そんな彼から送られてくるDGでしか味わえない富山湾の熟成した魚たち。
ぜひ食べにきて下さい。

高野農園(トマトやフルーツなど)

菅原さんの所に味がわかるお客さんはどれだけ居る? と高野さんは僕に質問しました。
高野さんは自分の作る農作物の味わいを追求する農家です。
糖度計を片手に科学者のような冷徹な目で作物を判断する一面と、
好々爺のように出来の悪い子供たちを見守る一面が同居する方です。

高野さんはこう言います。
これだけ長い間農業をやっていても、5年に1度しかスゴく良いものができない。
そして5年に1度、大失敗する。後の3年はまあまあだ、と。

特にスイカやメロンなどの果物は年に一回の厳しい勝負。
長い時間、手間をかけて順調に育て上げていても、
収穫前の二週間の気温や風で「木が引いていって」糖度が上がらず失敗することがあるそう。
2012年がまさに木が引いた年でした。
人間には手が出せない領域で勝負するシビアさに背筋が伸びます。

失敗作というスイカをその場で食べさせてもらいました。
割ると少しすが入っていますがそれは八百屋やスーパーで買っても普通のこと。
食べてみると果汁の中の蜜は気持ち薄く、物足りなさはあるかもしれないなという程度です。
一般的に見てこれが失敗なら世の中の大多数は失敗ですねと告げると、高野さんはこう返しました。

売れば売れるけど、味がわかる人からの信用を失う。だから売らない。

そして冒頭の質問につながりました。

信頼される料理人になりたい。

松浦農園(オーガニック野菜)

有機野菜と言葉にするとたった4文字ですが、それを実現する為にどれだけの戦いが必要か。
天候との戦い、気温との戦い、雑草との戦い、虫との戦い、自分との戦い・・・。
松浦さんは飄々と、と言ったら怒られそうですが、苦もなくこなしているように見えました。
しかし色々とお話をさせてもらううちに、精神力の強さが神レベルではないかと思うようになりました。

松浦さんは夏の間の畑を黒いシートで覆い、一ヶ月以上かけて土壌を殺菌します。
地中深くまで熱消毒され、雑草が生えなくなります。
秋になったら種を蒔き、今度は虫をよける為にネットをかぶせて育てます。
恐るべき労力が必要な作業を淡々とこなします。

松浦さんの有機農法は物理的で体力勝負の農法です。
これだけ労力をかけて育てる野菜ですが、
収穫前に一晩強くふいた風でネットが数センチ開き、一畝に虫がついていました。
虫捕らないんですか? と聞いたら、一言そこは諦めると言いました。
ネットが開いたのは俺のミスだし、虫を捕る暇があったら次の作物を育てると。

諦める?
何かよくわからない衝撃が走ったのを覚えています。
松浦さんの作った野菜は、不思議な味がします。
カブなのに桃のようだったり、枝豆も生で食べたら命の味がしました。

畑を訪れるたびに「菅原さんへの挑戦状」と言って作物を手渡されます。
重い重い挑戦状ですが、心が軽くなって帰れます。
僕はジャズを聴きながらそっくりの飼い犬と野菜を選別する松浦さんの大ファンなんです。

自社農場

鎌倉野菜が都内でもブランドとしてフレンチやイタリアンで使われるようになって大分経ちます。

ブームの頃、彼らは始発で鎌倉のレンバイと呼ばれる農家直売所に押し寄せ、
オトナ買いをして常連客の怒りと失笑も買っていました。
今でも葉山から横須賀線で来る時、レンバイの袋を両手一杯に抱えた人たちをよく見ます。

鎌倉野菜の特徴は、珍しい西洋野菜とミニチュア野菜です。
オレンジ色のカリフラワーや紫の大根など色とりどりの野菜は皿に盛るだけで高い訴求力を発揮しました。

それは鎌倉、逗子、葉山の料理人が地元の人と享受していたローカルフードでした。

鎌倉野菜の優れた作り手は限られた農家だけです。
買い手が増えれば当然粗悪品も並ぶようになり、それでも飛ぶように売れていました。

僕の逗子のレストランは鎌倉野菜の喧伝に一役買ったと自負しておりますが、
広い東京店ではすべて良質の鎌倉野菜で賄うのは不可能です。
でも野菜の生命力を伝える皿は必要と悩んだ結果、一つの答えを出しました。

自分たちの欲しい野菜は自分たちで作ろうと。

実はここからが本当に長い長い道のりの始まりでした。

苦労話と生育日記は「農場長の近藤のブログ」へ譲りますが、
安心して食べられる土のついた農作物は、信念が無ければ産まれる事はありません。

僕のブログではDGの為だけに作る特別な野菜の特徴と料理法について、
今後アップしていこうと考えています。

ナカジマ農場(鶏、卵)

卵は不思議な食材だと思います。
甘いものにも辛いものにも、主役にも脇役にもなれる奇跡の食べ物。
コンビニにも売っている身近なものですが、命そのものであることを忘れてはいけません。
親鳥が食べるもの、環境そのもので出来上がっている命なんです。

中島さんは卵の味を「デザインする」と言いました。
栄養素のバランスを設計し、量とタイミングを計ることで独自の卵を創りあげているのです。

化学的なものは一切排除し、殻の要素となるカルシウムには牡蠣を粉末にすりつぶしたもの、
タンパク質にはトウモロコシ(遺伝子組み替えていないもの)や魚粉、米ぬか、大豆かす(すべて国産)、
ミネラルには海藻を粉末にしたものなどを独自に配合し、長年の試行錯誤の上でバランスを完成させています。

海藻の粉末はヒジキのような匂いがして、鶏の餌とは思えない贅沢さです。
パプリカパウダーなどグラムあたり卵よりも高いスパイスも惜しげなく使っています。

鶏舎は糞などが下に落ちて鶏が汚れない状態で放し飼いにし、
日光を浴びさせ、夏場は頻繁にミストを放出し環境を快適にしています。
本当に元気な親鶏たちです。

味を追求するということは健康を追求するということ。
それが中島さんの言うデザインの一端であると感じました。

DGではそんなすばらしい卵をいろいろな料理やデザートに使っていますが、
いちばんその味がわかるのは「浜離宮プリン」です。
ギリギリまで焦がしたカラメルを受け止められるのは、味の濃厚な卵があるからです。

中島さん、ぜひ一緒にカステラをつくらせてください。