Category Archives: 食材

イベリコ豚発祥の地で(2日目 生ハム作り編)

イベリコ豚発祥の地で(2日目 生ハム作り編)

スペインでも最高品質として名高いMontesanoで、製造の全責任を取る工場長のセシ
リアと生ハム作りの工程を一緒に廻る事が出来ました。

幼稚な質問にも丁寧に答えてもらい、製造・熟成過程の肉をひとつひとつ解説しても
らいました。温度管理、湿度の関係、塩の量、匂いでの判別方法、カビの種類。

この旅の目的のひとつであった生ハムの作り方をマスターする事。これが机上では
叶った事になります。副社長のハイメからも、これで生ハム作れるねと太鼓判もらい
ました。ここまで理解したハポネ(日本人)もそういないだろうとの事です。
さて、では作り方です。

イベリコ豚の骨付き後足。

日本ではと殺場で捌かれてから加工業者の手へ渡ります。スペインでは加工業者が最
初から扱えるのが強みとなります。雑菌が入らないように出来るだけ無駄な包丁を入
れないとか、整形の事など完成形をイメージして捌く事が出来るからです。

塩漬け。塩の量は万遍なくかつ大量にです。

家庭で塩豚を作った事がある方もいると思いますが、大量にドリップ出ますよね。塩
漬けして一晩置くとちょっと血の色をした汁が出てきます。
イベリコ豚は水分が出ません。なぜと聞いたら逆に日本の豚はなぜと聞かれました。
ホルモン剤や抗生物質なのでしょうか。
恐ろしい話はいったん置いておきます。
漬込む期間は肉の重量によって変わります。生ハム作りでは塩漬けが一番重要で、低
い温度と高い湿度で浸透させます。
汁が出ないから使用後の塩がさらさらです。この塩を使いまわす事でより深い味わい
になるそうです。日本の豚では出来ない芸当です。

洗浄と整形です。

機械と人の手で一本づつ確かめられながら進んでいきます。

ちなみに整形はとても大事な作業です。熟成度合いも変わるし、値段も変わるそうで
す。

日本のグランビアさんの作り方ではここで塩抜きという工程が挟まれました。3日間
水に漬けるのです。もしかしたら塩ではなく薬抜きになっているのかもしれません。

次は乾燥です。高湿低温から段階的に湿度を下げ、温度を上げていきます。3ヶ月間
倉庫で管理された後、4ヶ月間の自然乾燥になります。

夏は汗をかかせてカビを付けていきます。

そして熟成へ。オリーブオイルでカビを拭き取り、ラードを定期的に塗り込んでいき
ます。

以前は乾燥・熟成に適した場所ということでここに工場が出来たのですが、今は人為
的にコントロールされてリスク回避。それでもロスが0.5%出るそうです。自然は人
為を尽くしても思い通りにいきません。
部屋ごとに温度と湿度が少しづつ違い、段階的に肉は部屋を移されていきます。

経験があり考察があり、発見があり工夫があって美味しい生ハムができあがる。
カビや酵母が時間を使ってじっくりと人間の求める味を作り出す奇跡。

初日に食べた腸詰めもこんな感じで作られています。

ハイメの執務室からは壮大な生ハムビュー。

ここからイベリコ豚の生足を仕入れて、日本でハモンセラーノ作りに挑戦しようと
思っています。
自分だけの生ハム作りに興味のある方、ご一報ください。一緒にやってみませんか?

イベリコ豚発祥の地で(2日目 農場編)

イベリコ豚発祥の地で(2日目 農場編)

豚おじさんと呼ばれている人がいます。
いじめられているわけではありません。尊敬をもって呼ばれる称号なのです。
イベリコ豚はこの地を発祥とする黒豚です。
モンテサーノは純血の子豚を選りすぐって買い付け、森と原っぱの中間であるデエサ
と呼ばれる広大な土地に放し飼いで育てます。

そこを管理するのが豚おじさん。この人です。

一頭あたり1から2ヘクタール割り当てられています。参考までに阪神甲子園球場が
1.3ヘクタールです。
丘で木も草も生えている甲子園球場で豚一匹探そうとしても簡単には見つかりませ
ん。
朝から探して夕方にやっと見つかるなんて話も聞いていましたが、今日は20分程ドン
グリを見ながら歩いていたら

運良く群れを見つけられました。

イベリコ豚はとても臆病で、人間を見つけるとスタコラ逃げていきます。
豚おじさんの指示で先回り。

数時間前に僕はこの子たちの喉が裂かれる現場を見てきたばかりです。それなのにこ
の牧歌的な風景は僕を癒します。
しゃがみ込んでいろいろな事を考えていたら、気づくと豚たちに囲まれていました。

豚おじさんが慌てて携帯でムービーを回しはじめました。臆病な豚たちが自分たちか
らこんなに人間に近づいてきたのは始めてだったそうです。
鼻息荒い命の躍動がすぐ手の届く目の前で僕を見つめています。

大きな半野生の豚なのに、怖さはまったくありませんでした。小さな瞳が僕を哀れん
で、赦してくれているような気さえしました。

村への帰り道。スペインでも3カ所しかない闘牛用の牛を育てている農場が近くにあ
るというので見に行きました。こちらは怖かったです。100m以上離れた所から本気で
威嚇されました。

村に帰って乾杯!

スペインのビールは旨い!

そして罪深き僕はこの後イベリコ豚の子供の丸焼きを食べました。

画像は自粛します。

イベリコ豚発祥の地で(2日目 工場編)

イベリコ豚発祥の地で(2日目 工場編)

今回は命をもらう現場の写真が使われます。
見たくない人は飛ばしてください。
美味しいとか不味いとか言う以前に、僕らは他の命を頂いて生きてます。
今の世の中は巧妙にそこを隠していますが、目を逸らす事で大事な何かや企業の悪事
を野放しにしている可能性があります。
正直、人間と同じ大きさの豚の解体を目の前で見て受け止められるか、僕も自信があ
りませんでした。でも経験して良かったと思います。
それでは始めます。

モンテサーノ社は早朝のと殺から始まります。全行程は近くに泊まらなければ見るこ
とができません。工場長のセシリアの案内で、イベリコ豚を殺す所から工場見学は始
まりました。

工場の奥へ進むにつれて、匂いが普通でなくなってきます。ここはやばいと全身が叫
びます。僕は心をなだめながら、同時に覚悟を決めながら進みます。

突然広い部屋に通じ、バーナーの音、水をかけるハイプレッシャー音、ベルトコンベ
ア、作業員の息づかいなどの音の塊とともに、血と内蔵と焼いた毛の匂い、そして目
に飛び込んでくるのは吊るされて順番に回っていく豚の姿。

隣の部屋で生きている豚が電気ショックで意識を失い、吊るされて喉を開かれます。
大量の血が流れ出ます。大きなバーナーで毛を焼かれます。

刀のような包丁で身体を2つにかっ捌く人、内蔵を取り出す人、顔を切り取る人、各
持ち場で作業員は黙々と自分の仕事を豚に施していきます。

僕は何も考えずにその光景を胸に刻んでいきます。
目をそらす事も意識を閉ざす事も出来ませんでした。
そこで行われている作業や光景をただ焼き付けました。
手に血が付いても気になりませんでした。

感傷的ではない、何か大きな感動のようなものが湧き上がってきました。
殺し殺される人類の営みというプリミティブな生命のダイナミズム。
宇宙? 神様? 今まで見た事のない自分・・・。

良い経験となりました。ありがとうございました。
僕はここから生ハム作りの行程へ進みます。
本場の作り方をマスターすることがこの旅の大きな目的だったので、セシリアと廻れ
たの大変貴重な事でした。

ここは興味がある方も多いと思うので、と殺の写真のない別の枠でやります。この先
はそちらへ。

工場見学の後、僕は農場へイベリコ豚たちに会いに行きます。
これも別枠でやらせてもらいます。

イベリコ豚発祥の地で(1日目)

イベリコ豚発祥の地で(1日目)

スペイン首都マドリードから新幹線で2時間半かけてセビリアへ。

そこから迎えの車でさらに2時間半。アウディで160キロ以上。一般道です。
待っていてくれたのはMontesano副社長のハイメ(右)と工場長のセシリア(左)。

DGで以前会った時に同い年である事が判明してもう打ち解け済み。この旅ではものす
ごく歓待してくれました。
工場のある村は教会と石畳が美しい要塞の村です。昔アラブ人が攻めて来た時に砦と
なった、そんな村のレストランでお昼ごはん。

まずはこれでしょう。最高級ベジョータの生ハム。

お金持ちしか食べられない世界最高の生ハムを、作った人たちと食べれるなんて人生
にそうない嬉しい経験です。

サラミなどの腸詰めも昔ながらの伝統的な製法で作り続けていると説明されながら頂
きます。

この時ハイメから味の配合や辛さについて意見を求められました。
野太いストレートの味わいは食べる人を試すかもしれないが、伝統の味は守るべきだ
と答えました。その上で別の人間がトレンドにあった腸詰めを開発するのも良いかも
しれないと。
価値観は揺らぎながら相対化し進化する。僕の座右の銘。

次はイベリコ豚の各部位を焼いて塩をかけただけのもの。

ロース、肩ロース、セクレト。これは楽しい。部位による味わいはイベリコ豚の真価
を楽しめる。
DGでできないだろうか。タンやハツやバラなども。料理長に相談だ。
食後はみんなほろ酔いで村を観光。

それでもヨーロッパの田舎の町並みは内省的にする何かがあります。美は口を閉ざし
心を開く。


それにしてもスペイン人は食べる事に飽くなき執着を見せます。夕食はポルトガルま
で行って食べようと誘われました。山を越えたら彼の国だそうです。
しかし宿が少し離れていたので今回は断念。宿のある港町でガリシア料理をごちそう
になることになりました。

ここでもハイメたちはVIPなので、料理の説明から作り方までシェフが出てきて何で
も教えてくれます。

ガリシア蛸や蟹のクリームグラタン、

アンコウのソテーなど大変参考になりました。

デザート、コーヒーまで済んだ後に、最後にジントニック飲まないかとハイメ。消化
にいいとスペインで流行っているそう。
出てきたのが大振りなワイングラスに氷を入れもの。ウェイターがおもむろにジンを
ドボドボと注ぎ始めました。呆然としていたら「それストップって言うまで入れる
よ」って今? 慌ててストップ!
この後スペイン中でジントニックを飲む事になるのですが、どこに行ってもこのやり
方でした。慣れると凄く楽しい。これはDGで採用だ!

お腹いっぱい。もう何も入りません。

自分で生ハムを作ろう

自分で生ハムを作ろう

ハモンセラーノ(スペイン)、プロシュート(イタリア)、金華ハム(中国)が世界
三大生ハムらしいです。
冷涼で乾燥した環境じゃなくては作れないと思い込んでいたら、日本の気候でも十分
作れると聞きました。
では作ってみようではないか。

赤坂にあるスペイン料理屋さんに手ほどきを受け、この手で仕込みました。
出来るだけ鮮度の高い骨付きの後足もも肉を用意。

無駄な包丁の入っていない肉であることが雑菌が入りにくい条件でもあります。です
が豚肉の中でも一番高価なヒレ肉と接合している部位なので、ももよりもそちらが優
先された解体になりがちです。
善し悪しは職人の腕次第というか運次第。
もも肉の血管から残っている血をしごきだします。血が残っていると腐敗の原因とな
ります。丁寧に根気よく。

それから塩漬け。まぶして擂りこんでを繰り返します。ひだひだもめくってまんべん
なく。その上でたっぷりの塩をかけて仕込み完成。一週間放置です。

一週間後に出たドリップを捨てて、ひっくり返してまた塩をかぶせます。
ちなみにスペインのハモンセラーノとは方法が違います。それは豚肉が違うからで
す。放し飼いで育てられたイベリコ豚はドリップが出ません。人工的に太らされた豚
肉は大量の汁が出てきます。スペインでの作り方もじっくりと学んできたので興味の
ある方は こちらもご覧下さい。

さて、塩に3週間漬込まれた後、水に漬けて塩抜き。そして乾燥へ。風通しが良く少
し日光が当たる所がベスト。1年間吊るされて熟成していきます。
冬に塩漬け、春に乾燥、夏、秋に熟成のサイクル。
血抜き、塩漬けと乾燥がしっかりとされていれば、東京の夏の気候でも大丈夫との事
です。
僕の生ハムは夏を超えられるのでしょうか。

来年の春にDGでお客様へ出せるかどうか、楽しみです。
来年はスペインからイベリコ豚を手に入れて試してみようと思います。
世界で1本だけの手作りのハモンセラーノを作りたい方、一緒にやってみませんか?